社員が辞めたことをきっかけに、会社が倒産する。そんな退職倒産が増えています。
東京商工リサーチによると、2026年度上半期(4〜9月)の人手不足関連倒産は240件。
そのうち、従業員の退職を原因とする倒産は67件となり、過去最多を更新しました。
中小企業にとって、社員の退職は単なる人員補充の問題ではなくなっています。

うちは少人数なので、ベテラン社員が一人辞めるだけで仕事が回らなくなりそうです。

社員に辞めてほしくないけれど、給料を大幅に上げる余裕もありません。
何か対策はないのでしょうか?

人手不足にはAIが役立つと聞きますが、社員の退職問題にも使えるのでしょうか?
人を採用したくても応募が来ない。ようやく育てた社員も辞めてしまう。
残された社員の仕事が増えれば、さらに退職者が出る可能性もあります。
こうした状況に対して、AIは何ができるのでしょうか?
結論から言うと、AIを導入しただけで社員の退職を防ぐことはできません。
給与や待遇、人間関係の問題は、経営者と社員が向き合う必要があります。
一方、特定の社員に仕事が集中していたり、毎日同じ事務作業に追われていたりする会社なら、AIで負担を減らせる可能性があります。
大切なのは、単に仕事を早く終わらせることではありません。
社員が無理なく働けるようにすること。そして、誰かが辞めても仕事が止まらない体制を整えることです。
AIで社員の代わりを探すのではなく、今いる社員の負担を減らすことから考えたいですね。
小さな会社ほど、特定の人に頼っている仕事を見直す意味があります。

この記事でわかること
- 「退職倒産」が過去最多になった背景
- 社員が本当の退職理由を会社に伝えない実態
- AIで減らせる仕事と、人が対応すべき問題
- AI導入後も社員が辞める可能性がある理由
- 中小企業が最初に見直したい業務
「退職倒産」67件。社員一人の退職が経営を揺るがす
目次
2026年10月8日、東京商工リサーチは2026年度上半期の企業倒産状況を公表しました。
人手不足関連倒産は240件。
前年同期の205件を上回り、年度上半期として過去最多です。
特に注目したいのは、その内訳です。
| 倒産の要因 | 2026年度上半期 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 人手不足関連倒産(合計) | 240件 | 205件 |
| 人件費高騰 | 130件 | 74件 |
| 従業員退職 | 67件 | 65件 |
※東京商工リサーチ調査。負債額1,000万円以上の企業倒産が対象。
人件費高騰と従業員退職は、どちらも過去最多を更新しています。
賃金を上げなければ人材を確保しにくい。
しかし、人件費が増えれば経営を圧迫する。
中小企業にとって難しい状況が、この数字からも読み取れるでしょう。
帝国データバンクも、2026年1〜7月に従業員や経営幹部の退職が直接・間接的に要因となった倒産を83件確認しています。
こちらも前年同期の74件を上回り、5年連続で増加しました。両社では調査期間や集計条件が異なりますが、共通するのは、既存社員の退職が経営上の重大なリスクになっているという点です。
退職に限らず、人手不足へのAI活用を考える場合は、これからの人手不足をどうする?|AIで解決できる理由5選も参考になります。
ベテラン社員が一人辞めると、何が起きるのか
例えば、社員10人の会社を考えてみましょう。
経理を担当するベテラン社員が、突然退職することになったとします。
請求書の作成方法、取引先ごとの支払い条件、毎月の確認作業まで、その人しか詳しく知らない。
後任を採用できても、業務の全体像が整理されていなければ、すぐに引き継ぐことは難しいでしょう。
営業担当なら取引先との関係、製造業なら熟練した技術など、職種によって失われるものは違うでしょう。
帝国データバンクの調査でも、事業の中核を担う人材の流出が経営を行き詰まらせた事例が報告されています。
実際、2026年5月に破産した貨物運送業の東海サービスでは、燃料費の高騰などで収益が圧迫され、ドライバーの賃上げが進められない中、退職が相次ぎました。
社員が辞めること自体は、どんな会社でも起こることです。
問題は、その人がいなくなると、会社の仕事まで止まってしまう状態にあることです。
人が辞めても対応できる会社と、一人の退職で業務が回らなくなる会社。
両者を分けるのは、採用力だけではありません。
普段から仕事をどう管理し、社員同士で共有しているかも重要になります。
退職者の88%が、会社に本音を伝えていなかった
社員が辞める前に、会社は問題に気づけるのでしょうか?
実は、経営者が考えている退職理由と、社員の本音が一致しているとは限りません。
株式会社ハッカズークが2026年3月12日に発表した調査では、過去1年以内に退職した20〜59歳の574人を対象に、退職理由の本音と建前を調べています。
結果から、経営者が見落とせない実態が浮かび上がりました。
退職者の88%が、会社に伝えなかった本音の退職理由があると回答したのです。
本音を伝えなかった理由を尋ねると、「上司に理解してもらえないと思ったから」が最多で54%でした。
「家庭の事情」という言葉の裏に、別の理由があることも
同じ調査では、会社に伝えた理由と、本音の理由に違いが見られました。
| 退職理由 | 会社に伝えた理由 | 本音の理由 |
|---|---|---|
| 家庭の事情 | 48% | 13% |
| 別の業界にチャレンジしたい | 40% | 18% |
※株式会社ハッカズーク「2025年退職理由の本音と建前に関する実態調査」
「家庭の事情」と説明していた人の中にも、会社へ伝えなかった別の理由を抱えていた人がいる可能性があります。
もちろん、退職には本人の希望や家庭の都合など、さまざまな事情があります。
会社に原因があると決めつけることはできません。
ただ、社員が何も言わないからといって、職場に問題がないとは限らないのです。

社員が本音を言ってくれないなら、会社は何を改善すればいいのでしょうか?
退職する段階で初めて理由を聞くのではなく、普段から社員の負担を把握することが大切です。
例えば、毎月の残業が多い部署はないか。特定の社員だけが休日に連絡を受けていないか。
休暇中に代わりを務められる人がいるか。
仕事内容だけでなく、本人が何を負担に感じているのかを直接聞く必要があります。
ただし、忙しい社員の仕事を減らせば、すべての退職問題が解決するわけではありません。
給与への不満や評価制度、人間関係の問題は、経営者や管理職が向き合う必要があります。
一方で、事務作業の多さや情報共有の不足なら、仕事の進め方を変えることで改善できる余地があります。
そこで検討できるのがAIの導入です。
社員の本音を聞くのは人の役割です。
でも、仕事の負担を減らす部分にはAIを活用できます。
何に困っているのかを聞いたうえで、改善できる業務を探すことが大切ですね。

人手不足の会社がAIを導入するなら、何を減らすべき?
AIを導入するとき、「何時間短縮できるか」を目標にする会社もあるでしょう。
もちろん、作業時間の短縮は重要です。
ただ、人手不足に悩む中小企業なら、もう一つ確認したいことがあります。
誰の仕事が減るのか。
会社全体で作業時間が短くなっても、最も忙しい社員の負担が変わらなければ、働きやすさの改善にはつながりません。
例えば、営業担当が毎日顧客対応に追われているのに、別の部署の資料作成だけをAIで効率化しても、営業担当の問題は残ったままです。
AI導入を考えるなら、まず仕事が集中している場所を確認する必要があります。

AIで社員の負担を減らしたいのですが、具体的にはどんな仕事から始めればいいですか?
候補になるのは、繰り返し発生している事務作業や、特定の社員に集中している情報整理の仕事です。
中小企業でも検討しやすい例を見ていきましょう。
1. 毎日繰り返す事務作業を減らす
例えば、会議の議事録を作成する仕事。
会議が終わるたびにメモを整理し、決定事項や担当者、期限をまとめている会社もあるでしょう。
会議の記録をAIで整理し、議事録の下書きを作成する方法なら、一から文章を書く負担を減らせる可能性があります。
担当者は下書きと元の記録を照合し、内容を確認して完成させます。社内案内や報告書の作成も同様です。
文章の下書きや整理をAIへ任せ、内容の判断は社員が行う。仕事そのものをなくすのではなく、繰り返し発生する作業を減らす考え方です。
2. ベテラン社員しか知らない仕事を共有する
もう一つ見直したいのが、業務の属人化です。
属人化とは、特定の人しか仕事の内容や進め方を把握していない状態のこと。
例えば、取引先から問い合わせがあるたびに、ベテラン社員へ確認している会社。
その人が休暇を取ると、誰も回答できなくなるかもしれません。
そこで、普段の問い合わせ内容や対応方法を整理し、AIでマニュアルの下書きを作る方法があります。
ただし、AIに質問するだけで、その人の経験や知識が自動的に保存されるわけではありません。
実際の手順を本人から聞き取り、社内の記録を整理し、内容を確認する作業が必要です。
一度マニュアルを作って終わりにせず、業務内容が変われば更新する。
そうした運用ができれば、新しい社員が自分で確認できる情報も増えていきます。
3. 残された社員に仕事を押し付けない
社員が一人退職すると、残った社員へ仕事を振り分けることになります。
そのとき、すべての仕事をそのまま引き継がせれば、別の社員の負担が増えてしまいます。
仕事を振り分ける前に、本当に必要な作業かどうかを確認することも大切です。
毎月同じ数字を別の書類に転記していないか。
複数の社員が同じ情報を入力していないか。
似たような報告書を何種類も作っていないか。
AIだけでなく、Excelの機能や既存のシステムで改善できる仕事もあります。
何でもAIで解決しようとする必要はありません。
社員が担当している仕事を整理し、不要な作業を減らしたうえで、AIが向いている部分を選ぶ。
人手不足の会社ほど、導入する機能の多さより、現場の負担が本当に減るかを考えたいところです。
まずは一人の社員に集中している仕事を確認してみてください。
AIで下書きや情報整理を補助できれば、その社員しかできなかった仕事を、他の人も担当しやすくなる可能性があります。

AIを導入しても、社員が辞める会社は変わらない
ここまで読むと、AIで仕事を減らせば社員の退職問題も改善しそうに感じるかもしれません。
しかし、AIによる業務効率化と、社員の定着は同じではありません。
例えば、AIの導入で報告書の作成時間が短くなったとします。
会社は作業時間の削減を成果として評価しました。
ところが、空いた時間に別の仕事が追加され、社員の負担は以前と変わらない。
そんな状態では、AIを導入した意味を社員が実感できないかもしれません。
作業時間が減っても、仕事の負担が減るとは限らない
AIの導入後に確認したいのは、削減できた作業時間だけではありません。
- 毎日の残業時間は減ったか
- 特定の社員への質問や確認が減ったか
- 休暇を取りやすくなったか
- 業務を他の社員へ引き継ぎやすくなったか
- 社員自身が負担の軽減を感じているか
数字では改善しているように見えても、現場では仕事が増えている場合もあります。
AIを活用する目的が人手不足への対応なら、実際の働き方がどう変わったのかを確認する必要があります。
給与や人間関係の問題は、AIだけでは解決できない
2026年の退職型倒産に関する帝国データバンクの調査では、賃上げ原資を確保できず、中核となる社員の流出を止められなかった事例も報告されています。
給与の問題を、AIの導入だけで解決することはできません。
ただし、AIによる生産性の改善が会社の収益向上につながれば、待遇改善の原資を確保する一助になる可能性はあります。
そのためには、作業時間を減らすだけでなく、業務改善の成果を会社全体でどう活用するのかまで考える必要があります。
また、社員の評価や人間関係への不満も、AIが代わりに解決してくれるわけではありません。
上司が社員の声を聞き、必要な改善を行うことが欠かせません。

結局、AIを導入するだけでは人手不足は解決しないんですね。
その通りです。AIは人手不足対策の一部を担えますが、すべての問題を解決するわけではありません。
経営者が仕事の負担を把握し、必要な改善を決める。社員は実際の業務について意見を伝え、導入後も使いやすい方法へ見直していく。
AIによる業務改善と、人による職場改善の両方が必要です。
AIを導入して終わりではありません。
作業時間が減っても、社員がもっと忙しくなっていたら意味がないですよね。
導入後は、現場の負担が本当に減ったかを確認することが重要です。

中小企業が最初に見直したいのは、社員一人に集中している仕事
では、実際にAIを導入するなら、どこから始めればよいのでしょうか?
最初から大きなシステムを購入したり、すべての業務をAIに変えたりする必要はありません。
まずは、社員の負担が集中している仕事を一つ選んでみてください。
例えば、毎月の請求書処理を一人の社員が担当している会社なら、その仕事の流れを確認します。
取引先ごとの情報はどこにあるのか。何を毎月手入力しているのか。どの部分で確認や判断が必要になるのか。
作業を分けてみると、AIが役立つ部分と、別の方法で改善すべき部分を整理しやすくなります
。AI導入とあわせて社内研修や助成制度を検討する場合は、AI導入研修とリスキリング助成金の解説も参考にしてください。
ChatGPTに業務改善を相談してみる
改善できる仕事が分からない場合は、ChatGPTへ業務内容を説明し、候補を整理してもらう方法があります。例えば、次のように相談できます。
業務改善を考えるためのプロンプト例
中小企業の業務改善を検討しています。
以下の仕事について、繰り返し発生する作業、担当者しか分からない作業、人の判断が必要な作業に分類してください。
社員の負担を減らすことを目的に、AIで改善できそうな部分を整理してください。
最初に小さく試せる作業を一つ提案してください。
【個人情報や機密情報を除いた業務内容を入力】
AIから提案が出ても、そのまま実行する必要はありません。
実際に仕事を担当している社員へ確認し、負担が減る方法かどうかを判断します。
また、顧客情報や社員の個人情報、社外秘の情報は、会社の利用ルールや契約条件を確認せずにAIへ入力しないよう注意してください。
小さな仕事で試してみて、効果を確認してから他の業務へ広げる。
大切なのは、AIを導入した実績を作ることではなく、社員の仕事を実際に改善することです。
まとめ|辞めない社員を探すより、辞められても仕事が止まらない会社へ
2026年度上半期、従業員の退職を原因とする倒産は67件となり、過去最多を更新しました。
社員が辞めることは、どんな会社にも起こり得ます。
だからこそ、今いる社員が働き続けやすい環境を整えると同時に、誰かが辞めても仕事が止まらない体制が必要です。
AIは社員の退職を防ぐ特効薬ではありません。
しかし、繰り返し作業や情報整理、業務マニュアルの作成など、社員の負担を減らす場面では活用を検討できます。
そして、給与や評価、人間関係の問題は、経営者や管理職が向き合う必要があります。
人手不足の会社が目指したいのは、AIを導入した会社ではなく、社員が無理なく働き続けられる会社。
まずは、誰か一人しかできない仕事や、特定の社員に集中している業務がないかを確認してみてください。
人手不足対策としてAI導入を考えている企業の方へ
「社員に仕事が集中しているけれど、どこから改善すればよいか分からない」
「AIを導入したいが、自社の業務に使えるのか判断できない」
「AI研修を受けても、社員が実際の仕事で活用できていない」
生成AI未来創造スクールでは、中小企業向けのAI研修・業務改善に関するご相談を受け付けています。
ChatGPTの操作を学ぶだけでなく、実際の業務をもとに、AIを活用できる部分と人が判断すべき部分を整理します。
人手不足対策としてAIを検討している企業の方は、まずは現在の業務についてご相談ください。
参考情報・出典
- 東京商工リサーチ「2026年度上半期(4〜9月)の全国企業倒産状況」(2026年10月8日)
- 帝国データバンク「従業員退職型の倒産動向(2026年1〜7月)」(2026年8月7日)
- 株式会社ハッカズーク「2025年退職理由の本音と建前に関する実態調査」(2026年3月12日公表)
- Yahoo!ニュース エキスパート・横山信弘氏「退職倒産が過去最多」(2026年10月26日)
※業務場面は説明のための想定例です。AI導入が離職率を下げるという効果を実証した事例として紹介しているものではありません。
