「ChatGPTはこう言ってます」
そう言って顧問先からスマホ画面を見せられたら、何と返しますか?
顧問先がChatGPTで税金を調べてから相談に来る。
私は、むしろ健全な変化だと思います。
税金は自分が払うものです。
それなのに制度が複雑で、「よく分からないから税理士に任せるしかない」という状態が当たり前になっていた面もあります。
ChatGPTなどの生成AIによって、分からなかった言葉を聞く、制度の概要を調べる、複数の選択肢を比較するといったことが簡単になりました。
納税者自身が自分の税金について理解しようとするのは、悪いことではありません。
問題になるのは、その次です。
「ChatGPTが出した一般的な答え」を、「自分にもそのまま当てはまる答え」だと思ってしまうこと。
そこで税理士の出番があります。

でも、顧問先から「ChatGPTではこう言ってます」と言われると、正直ちょっと身構えてしまいます。
気持ちは分かります。
でも、顧問先が勉強してくること自体は歓迎していいと思います。
税理士が見るべきなのは、ChatGPTとの知識勝負ではなく、その答えが顧問先にも当てはまるかです。

この記事でわかること
- 顧問先から「ChatGPTはこう言ってます」と言われたときの受け止め方
- AIの回答が正しくても、そのまま顧問先に当てはまるとは限らない理由
- 顧問先が生成AIで税金を学ぶことが、税理士にもプラスになる理由
- AI時代に税理士へ求められる「個別判断」と「説明力」
納税者が税金を理解するのは、本来いいこと
税金について詳しくなるのは、税理士だけでなければならないのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
国税庁は組織の使命として、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」ことを掲げています。
また、「税を考える週間」などを通じて、国民が税の意義や役割への理解を深める取り組みも続けています。
つまり、「税金のことは難しいから、一般の人は分からなくていい」が理想ではありません。
生成AIは、そこを大きく変える可能性があります。
たとえば、「減価償却って何?」「青色申告と白色申告は何が違う?」「法人化すると何が変わる?」といった疑問を、専門用語が分からない状態からでも質問できます。
2026年2月にはfreeeも、ChatGPT上で税理士が実際に回答した1万件以上の相談例を検索できる「freee確定申告」を開始しました。
必要に応じて税理士検索へ進む導線も用意されています。
AIか専門家か、という二者択一ではありません。
AIで知り、自分で考え、分からないところを専門家に聞く。
納税者側から見れば、以前より自然な流れになってきています。
生成AIを仕事の予習や整理に使う基本は、個人事業主がChatGPTを仕事で使うなら?まず任せたい3つの作業でも紹介しています。
顧問先がAIで予習できるようになるほど、税理士への相談は「用語を教えてもらう場」から「自分の条件で判断してもらう場」へ変わります。
ただし「知っている」と「自分で判断できる」は違う
ここで注意したいのが、生成AIの回答です。
ChatGPTが誤った内容を出すことは知られるようになりましたが、税務でより気づきにくいのは、「答え自体は正しいのに、自分には当てはまらないケース」です。
2026年2月、川畑税務会計事務所が実際の相談をもとにした事例を公開しています。
相談者は個人事業主。
生成AIで調べた結果、「マイクロ法人を作る」「役員報酬を低くする」「個人事業と法人を併用する」といった方法で、税金や社会保険料の負担を抑えられるという情報を得ていました。
税理士側も、生成AIが示した情報について「一般論としては正しい」としています。
ところが、税理士が事業内容を詳しく聞くと話が変わりました。
相談者の業種では、同じ仕事を個人と法人に分けて行うことが現実的ではありませんでした。
法人化するなら個人事業をやめ、法人一本にする必要があります。
さらに生活費も必要です。
生活費を法人から役員報酬として受け取れば、「役員報酬を低くして社会保険料を抑える」という前提も崩れます。
生成AIは、完全に間違っていたわけではありません。
相談者の現実と、AIが前提にしていた条件が違っていたのです。
間違った答えなら、「違います」と訂正できます。
難しいのは、正しそうな答えです。
一般論を個別事情に当てはめる前に、事実関係と前提条件を確認する必要があります。
「ChatGPTはこう言ってます」に税理士はどう答える?
顧問先から「ChatGPTでは、法人化した方が節税になると言っています」と言われたとします。
そこで「ChatGPTは間違うから信用しないでください」と返す必要はありません。
逆に、「ChatGPTがそう言っているなら大丈夫でしょう」でもありません。
まず確認したいことが3つあります。
1.ChatGPTに何と質問したのか
回答だけではなく、質問も見ます。
どこまで条件を伝えているのか。
売上や利益、事業内容、今後の予定まで伝えているのか。
質問内容が違えば、回答も変わります。
2.ChatGPTが知らない事情は何か
AIへ入力していない情報は、当然AIには分かりません。
税務では、次のような事情が判断を変えることがあります。
- 事業内容
- 売上や利益
- 他の所得
- 家族構成
- 必要な生活費
- 今後の事業計画
顧問先本人が、「そこまで伝える必要がある」と気づいていない場合もあります。
3.その回答を見て、何をしようとしているのか
単なる情報収集なのか。
法人を作ろうとしているのか。
契約や申告に反映しようとしているのか。
行動によって、確認すべき深さは変わります。

ChatGPTの文章を全部チェックするというより、回答が出た条件を見るんですね。
そうです。
「合っている・間違っている」だけを見るより、「何が抜けているか」を見る。
そこは専門家が強いところです。

顧問先への返答も難しくありません。
法人化が有利になるケースはあります。
ChatGPTへ何を質問したのか、回答を見せてもらえますか。
御社にも当てはまるか、一緒に条件を確認しましょう。
AIを否定せず、顧問先が調べた行動も否定しない。
そのうえで、専門家として判断する。
かなり自然な対応です。
顧問先が詳しくなると、税理士の仕事も変わる
ここからが、生成AIによる本当の変化だと思います。
顧問先が何も知らなければ、「専門家がそう言うなら、そうなんでしょう」で話が終わる場合があります。
ところが顧問先がAIで予習するようになると、「なぜですか?」「ChatGPTでは別の方法も出てきました」「AとBなら、うちにはどちらがいいですか?」と質問できるようになります。
税理士側からすると、簡単な話ばかりではありません。
説明も比較も必要になり、「昔からそうしているから」では通りにくくなるでしょう。
でも私は、それでいいと思います。
税務が難しいからという理由だけで、専門家の領域が聖域になり続ける必要はありません。
納税者が知識を持てるようになれば、「説明が曖昧なまま進める」「顧問先が理解していなくても、そのまま処理する」「以前からの方法を深く検討せず続ける」といった仕事は、以前より見えやすくなります。
すべての税理士がそうだという話ではありません。
ただ、生成AIによって専門家と顧客の「情報量の差」が小さくなるなら、専門家側にも緊張感が生まれます。
その緊張感は、より良い説明と判断につながります。
AI時代は「説明できる税理士」が強くなる
生成AIと知識量だけを競えば、人間には厳しい部分があります。
大量の情報を短時間で整理する、複数の制度を比較する、一般的なメリット・デメリットを列挙する。
いずれもAIが得意な領域です。
だから税理士が、「私はChatGPTより税法をたくさん知っています」で勝負する必要はありません。
必要になるのは、「一般論ではそうです。でも御社は条件が違います」「方法は3つありますが、今後の事業計画を考えると私はAを勧めます」「税金だけなら有利ですが、資金繰りまで含めると別の選択肢があります」と説明できることです。
答えを知っている人から、答えを判断できる人へ。
専門家としての価値がなくなるというより、価値が見える場所が変わります。
freeeが2026年1月に個人事業主・副業会社員1,153人へ実施した確定申告の不安に関する意識調査では、75.1%が「AIが完璧にやってくれると言われても、最後は専門家に確認・相談したい」と回答しています。
AIを使える。
でも最後は人にも確認したい。
一見矛盾していますが、情報を得ることと、責任を伴う判断をすることは同じではありません。
納税者にも税理士にも、生成AIはプラスになり得る
生成AIで納税者が税金を理解できるようになる。
私は歓迎すべき動きだと思います。
納税者側には、次のような利点があります。
- 税金について質問しやすくなる
- 専門用語を理解しやすくなる
- 税理士へ相談する前に考えを整理できる
- 提案された内容について質問できる
一方、税理士側にも次のような可能性があります。
- 基礎説明だけに時間を使わずに済む
- 顧問先と一段深い話ができる
- 判断や提案の理由を説明する力が磨かれる
- 専門家として本当に価値のある仕事が見えやすくなる
顧問先が賢くなり、税理士も真剣になり、相談の質が上がる。
納税者と税理士、双方にとってプラスになり得る変化です。
AIへ何を任せ、どこを人が確認するかという考え方は、AIが仕事を代わりに進める時代へ|「任せ方」と「確認の仕方」3選も参考になります。
顧問先との会話でも、AIの答えを結論として扱わず、確認の出発点にすることが大切です。

「ChatGPTを使わないでください」ではなく、「調べた内容を一緒に確認しましょう」の方が、顧問先との関係も良くなりそうですね。
AIを使う顧問先を怖がるより、AIを使う顧問先にも頼られる事務所になる。
そちらの方が前向きだと思います。

まとめ|「ChatGPTはこう言ってます」を歓迎できる税理士事務所へ
「ChatGPTはこう言ってます」
そんな相談が来ても、面倒な顧客だと思う必要はありません。
まず、次の3点を確認します。
- ChatGPTへ何を聞いたのか
- 回答に足りない前提はないか
- 顧問先が何をしようとしているのか
AIの答えを否定するのではなく、一般論から個別の判断へ進める。
そして、顧問先が税金について理解しようとしているなら、その動き自体は歓迎する。
税金について知る人が増えることは、税理士にとって脅威とは限りません。
納税者は自分の税金を理解し、税理士はより質の高い判断と説明をする。
そんな関係へ変わるきっかけになります。
生成AIによって問われるのは、「税理士が必要かどうか」ではありません。
AIを使う顧問先からも、相談したいと思われる税理士でいられるか。
そこではないでしょうか。
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ChatGPTを仕事で使う方法は、文章作成や調べ物だけではありません。
顧問先が生成AIを使う。
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